科学と社会とSFのつながり

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科学と社会とSFのつながりについて各界の方々が語るイベントに参加してきました。

下にSFの科学に対する役割をまとめてあります。

イベントの所感はこの色で書いています。
 

参加したイベント

サイエンスアゴラ 2015:キーノートセッション
サイエンス・コンテンツ・イノベーションの可能性 ~ 先端科学者とクリエーターの交流を加速する ~ 

 
登壇された方々は以下の通りです。
  • 科学技術研究者:松尾 豊 氏(東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 准教授、人工知能研究者)
  • 企業の研究開発・知材担当役員:浅見 正弘 氏(富士フイルムホールディングス株式会社 取締役 執行役員 技術経営部長)
  • SF作家:藤井 太洋 氏(作家、SF作家クラブ会長)
  • ベンチャーキャピタリスト:高槻 亮輔 氏(株式会社インスパイア 代表取締役社長)
  • モデレーター:妹尾 堅一郎 氏(産学連携推進機構 理事長)
 

レポート

始めはそれぞれ数分スライドを使ったプレゼンで、自身のSFコンテンツとの関わりを発表して、その後ディスカッションとなりました。
 

妹尾 堅一郎 氏 

この対談のモデレーターなので主に趣旨説明。
自身は文系である。
研究者と話すとコンテンツの話がよく出てくる。アトム、ガンダム攻殻機動隊ジュラシックパーク等。
研究者⇔クリエータ、お互いの創造力を刺激する。
R&D関係者がそれを捕まえるとイノベーションが起こる?それとベンチャービジネス。そこからファンドが動く。
それを動かしているのがコンテンツなのではないか。
新しい知とは?
知の創出モード(妹尾2000)
  1. アドバンスフロンティア(先端知)
  2. インター(学際知)
  3. ニッチ(間隙知)
  4. フュージョン(融合知)
  5. トランス(横断知)
  6. メタ、上位知、俯瞰知
このモードでコンテンツとサイエンスを考えてみる
レオナルド・ダ・ビンチの時代はコンテンツとサイエンスが融合していた?
 

松尾 豊 氏

SFをかなり読んでいた。人間の見ている世界をコンピュータで実現する。人間が持っている認識の限界を超えられるのではないか。
ディープラーニング。1956年から研究始まっている。脳のような深い構造のニューラルネットワークを構築する。
写真にねこ、いぬを認識させる。ディープラーニングで間違う確率が劇的に下がった。コンピュータの画像の認識精度が人間を超えた。認識というのをコンピュータはできなかった。推論の研究等うまくいかなかった。それが今できるようになってきた。そういう研究が一気に進む可能性がある。ロボットが試行錯誤して動きがが習熟してくるなど。
人工知能の基盤の上にどういう社会を描いていくのかが重要。どうやって社会をつくっていくか。そういう部分にコンテンツの力がきいてくるのではと思っている。
 

浅見 正弘 氏

論より実験結果という考えで進んできた。
影響を受けたものは、少年少女宇宙科学冒険全集、安部公房の第四間氷期養老孟司唯脳論
インターネットの出現など。
養老孟司の本に書いてるが感覚世界と概念世界がある。そこを言語がつなぐ。
現実のSF化がおこっているのでは。
仮説の発想アブダクションが創造性の鍵になる。SFはアブダクションを加速するツールである。
 

藤井 太洋 氏

子どもの頃の記憶:改良されるサトウキビ 米軍機にロケット、日蝕、流星、月蝕 そして手塚治虫の漫画火の鳥ブラックジャック
技術と科学へのあこがれ
ICU出身:演劇にはまって中退。その後コンピュータにのめり込む
Mac OSセキュリティホールを数個見つけて世界から怒られた。ハッカーだった。ある物を分解してみる。正当なコンピュータを学んだわけではない。
DTPMac OSのセキュリティを追いかけたり、グラフィックソフトの開発指揮、HTML5twitterクライアントをつくったり。
理想と現実とのギャップ。
東日本大震災後、放射線での恐怖の宣伝から正しい情報の伝達へ→ジーンマッパー執筆。
 

高槻 亮輔 氏

ベンチャーキャピタリスト。
イスラム法に則ったファンドをつくった。コンテンツへの制限。女性の黒髪がたなびくだけでも駄目。
影響を受けたものは、2001年宇宙の旅ガンダム、スタウォーズ6、1、2、3、風の谷のナウシカスペースボールDarwin's Dilemma(ゲーム)、財閥銀行(ゲーム)、エヴァ、finalfantasy XI、電脳コイルなど。
ミドリムシの企業を育てた。
 

ディスカッション11:30-

ものの見え方について

高槻氏:数字は全て実体化して見える。数字の絶対値のスケールが見える。長方形みたいに。バランスシートの数字等がそう見える。
浅見氏:化学化合物を見ていた。電子雲のようなうようよしているように見える。
松尾氏:認識の世界、人間の認識の世界。自分の見方の限界が決まっているのが不安。ビックデータの文脈でものを見る。データで見るのが好き。結婚したときの幸せになる確率を計算したいがデータがない。この会社に入っていいのかというデータがない。大事なことを主観で決めていいのか。ベースになるデータを提供してくれと思っている。
藤井氏:全てが小説のネタにしか見えない。ニュースを見るたびにネタフィルターがかかる。やっている物に関するフィルターがかかる。
妹尾氏:ビジネスモデルという観点で物が見える。解読と解釈、コーディングとデコーディング。
 
→それぞれ自分の職業にそったものの見方をしているようです。
 

ざっくばらんに

松尾氏:whatの部分をコンテンツが補う。目的が重要。利便性と安全性はトレードオフ。明示的に自動運転の法定速度を選ばなければならない。いまは暗黙的に時速60kmを選んでいるが自動運転になったら時速何kmを選ぶのか。
 
→新しい視点でした。制限速度時速60kmに対して、人が運転するという前提が崩れたときに、時速何kmを選ぶのか。他にも科学技術が進歩して生活圏まで達したときにどう選択するか。
 
藤井氏:自動運転とかは確率とかが骨身に染み付いている場合に許容できる。人の顔が見えるということが必要だと思っている世代の人とのバランスになる。小説を書いている人たちはだいたい人間を書いている。科学技術を書くことだけが目的ではない。ある科学技術が世の中に出たときにどうするかということももちろん考えているが。昔、試験管ベイビーというのが話題になった時代があった。試験管の中に胎児が浮かんでいるイメージ。数十年後、体外受精は普通の話になった。
 
→自動運転車の時速を決めるには世代間のギャップを埋めることも必要。そういうことも含めてSFは描いているのかもしれない。イメージが先行することもあるが、徐々に現実になっていく。実際にSFのような技術が実用化し始めると、SF的なイメージが先行するのかもしれない。
 
妹尾氏:Science FictionとScience Factsの話。
 
浅見氏:社会にとってよいこととは何かを見抜くことで企業の倫理性が決まる。そういった前向きな力が集まる方が大事。社会的価値がある方がドライブがかかる。富士フィルムのエボラ熱での貢献。
写真の会社がなぜ化粧品?薬品?→写真ていったいなんだったんだっけ?写真があるから素晴らしい瞬間を残せた、というのがコンセンサス。人間にとって大事な物をやるなら写真じゃなくたっていい。肌がきれいになって幸せになる、病気が治るようになる薬。こう考えれば写真から化粧品や薬だって違和感がない。
エネルギー消費が多いものや有害な物を出す物はあまり良くないと思う。サステナブルに貢献できない物には飛びつかない。
 
高槻氏:志を持ってやるものと儲かるものをどう判断するか。売り上げも大事。志も大事。inspireでやらなくてもいいなという物はある。しかし、きれいごとは言ってられないから節約してきりつめる。大企業とは違う世界。
 
妹尾氏:問題設定。与えられた問題を解決するのはできる人は技術者に多い。問題設定する方法とは。浅見氏が言ったアブダクション。物をつくるのはアブダクションの加速ツールはSFからアイディアを得たのか?
 
浅見氏:SFは事実から枠を取っ払うもの。SFがアブダクションを加速させる。科学の過程で仮説をつくる際の枠を取り払ってどうなるか考えるのがSF。藤井氏の作品を読んだが全て読後に希望が持てる。
 
→SFはある意味思考実験。
 
藤井氏:褒められると照れくさい。JAXAから問い合わせがあったり。クラーク自体が通信衛星を考えたり。自分の興味のありそうな本を紹介してくれるというAmazonがやっているようなことを予言したりしたので、SF作家が先を読めるというイメージが。しかし狙って予言しても当てるのは無理。
 
→その思考実験に関して実際の研究機関から問い合わせがあったり、実際に新しい技術や研究のアイディアになったりしているという。つまり科学とコンテンツは実際に影響を与え合っている。
 
松尾氏:SFはたくさん読んだ。論文とSFって殆ど一緒。どちらもある論旨を正当化するための論拠を並べるもの。三項分岐、実験、他の文献をひく、いろんな知見の整合性からひくなどの方法がある。SFには整合性があってほしい。整合性によって説明力を保つというのがSF。
 
藤井氏:ドーキンス利己的な遺伝子に「この本をSFのように読んでほしい」と序文に書いてある。ミームドーキンスのロジックが感動的。パラダイムシフト。
 
松尾氏:SFも人工知能学会の論文として認めるというアイディア。整合性が説得力を担保すれば論文として認めるというのが面白いのでは。
 
→SFが論文になるというのは面白い。SFと研究はある分野に関しては非常に近いのかもしれない。人工知能の研究など。
 
妹尾氏:アブダクションは演繹でも帰納でもなく意味解釈。現実感の喚起。価値の共感が必要。
50−60代で若いコンテンツを見ているか?世代論が必要。科学技術コンテンツの世代論。どういう影響を受けたのかという研究が必要。
ある世代からコンテンツ離れをしなくなる。若いときのコンテンツの形態、中身についていっている。親子で楽しむとかしているとまた違ってくる。子どものうちは影響を受けたコンテンツは偏る。大学、社会人は多種多様になる。
 
→科学という観点だけではなく、子どもの頃に触れるコンテンツの偏りは興味深い。それが研究の流れに影響を与えている可能性は大いにあり得るのでこの研究は注目。
 

ディスカッションの最後に一言

高槻氏:やりたくてできないというものSFなどのコンテンツで肯定的にとらえられているといいバックアップになる。コンテンツクリエータと同じ目線を起業者が持っていると面白いのかもしれない。
 
→コンテンツとしてポジティブに受け取られた科学技術というのはその後の研究や事業でも好影響を被るに違いない。
 
藤井氏:貴重な体験でした。
 
浅見氏:遺伝子とデジタルの親和性とジーンマッパー。DNA構造が二重螺旋として発見されたとき、それをデジタルだと思った。遺伝子の世界をコンピュータ技術で加速できるという環境が整ってきた。コンピュータサイエンスがバイオロジーを換えていくのに興味がある。発展すればますますそういう議論が進む。
 
松尾氏:人工知能は日本にとって大きなチャンス。シリコンバレーの資本の循環では勝てない。日本ではわけわからない祭り状態を作り出すしかない。日本は一気に人が同じ方向を向く。そのためにはコンテンツが必要。キリスト教では必ず人工知能が人を襲う。日本には八百万の神がいる。そこの違いを見せるしかない。
 
→「祭り状態」というのはいい言葉だと思った。日本的感覚と日本的力を最大限に使ってやっていくのが対抗手段になりうるかもしれない。それにはコンテンツに大きな可能性がある。
 
妹尾氏:SFは科学技術の解釈ツール。具体的なイメージを現実感を持って指名してくれる。問題設定ツール。howはある。whyとwhatはコンテンツ。前提を広げてくれるアブダクションツール。リードパス。科学者たちがそれを見て動いてくれるのでは。
論文とSFが繋がる。ダ・ビンチのサイエンスとアートの融合のように。リバースルネサンス。これを混沌と呼ぶか百花繚乱と呼ぶか。
 
→SFコンテンツは何かと引き合いに出しやすいのでwhyとかwhatの部分に大いに影響を与えると思う。アブダクションツールとしてもそうだけど、社会と科学、人間と科学の関係を考えるときもよいツールとなると思う。
 
イベントレポートは以上。
 

SFは科学と社会をつなぐ

SFは自分たちの生活の中で科学技術に触れて考えるためのツールになります。新しい技術が現れた時に人はどうそれらを解釈し、どう扱うべきかということを先行して思考実験をするツールでもあります。ある仮想社会の中でその科学技術が実際に使われているところが物語になっていますので。そういった情報に幼少期に触れていた場合には科学技術のwhatやwhyという部分にも影響を与えたりします。さらにより多くの人が影響を受けるメディア(SF映画やアニメ等)になってくると、先行して新しい科学技術のイメージが広範囲に広がるので、そのイメージによりその科学技術がポジティブなものなのかネガティブなのかという印象も大きく変わってきます。そのためにその技術が社会的に許容可能なのか、不可能なのか、という感情的なところまで影響を与え、最終的にその科学技術をどう社会の中で扱うのか決定するところまで影響がある可能性があります。

 

SFはアブダクション(仮説推論)加速ツール

SFはそれが実現できるかどうかという枠を取り払った上で語られる物語なので、ある意味極端に表現されていることが多いと思います。その極端さ故に仮説としておもしろくなります。科学ではhowと問うことはできますが、whatやwhyの問いは難しいとされます。SFがこの辺りの「科学の解釈」という部分を担っていけるのかもしれないですね。SFは推測、想像の話なのだけど、そこから科学技術への理解や共感が生まれるし、研究上の仮説も生まれる。問題を見つけるツールにもなります。

 

SFが科学に影響を与える

いくつか例が出ましたが、アーサー・C・クラーク氏が静止衛星による電気通信というアイディアを出し論文を書いたり*1、藤井氏のもとにJAXAから問い合わせがあったりといった例が出ました。SF作家が科学に影響を与えている例だと思います。他にもインターステラーという映画にでは理論物理学者のキップ・ソーン氏が科学コンサルタント兼製作総指揮を務めていて、ワームホールブラックホールを正確に描いた映画とされ、そこから学術論文も生まれています。*2 攻殻機動隊を実現するプロジェクトなんて言うのも立ち上がっています。*3 また、松尾氏はSFと学術論文はともに整合性が取られているという点で共通しているので、人工知能学会の論文としてSFも認めてもいいのではないかというアイディアを出していました。SFを一つの科学研究と考えるところは素直に面白いと思っいました。そういった方法で科学がSFを取り込み、SFが科学を取り込んでいけば、また違う発展の仕方をするのではないかと思います。

 

まとめ

SFと科学技術というのはどうやら結びついているようです。それぞれの業界はあるものの、その壁を飛び越えて影響している。そこを取り巻く企業やベンチャーキャピタルも知らぬ間に相互作用が起きているのかもしれないですね。そういった関係や影響は興味深いし、このイベントはそういった活動を「サイエンス・コンテンツ・イノベーションスタジオ(仮)」として展開していくためのキックオフの意味もあるということなので、今後の動きも注目していきたいと思います。

 

(発言等に間違いがあればご指摘ください。訂正致します。)